つい先日の話です。いつものように朝から外来診療をしていると、80代の男性患者さんが家族の人に連れられてやって来ました。どんな症状で病院を受診したかのというと「昨日から元気がない」というよくあるパターンの患者さんでした。その患者さんを”Aさん”と呼ぶことにします。Aさんは病院まで家族の人に車で連れて来てもらい、病院到着と同時に車椅子に座らされて僕の診察室まで運ばれて来ました。車椅子に乗せられたAさんは、ぼんやりと天井の方を眺めながら、ゆっくりと肩で息をしていました。
僕はいつものようにまずAさんに挨拶をしました。Aさんは僕の声が聞こえていないのか、挨拶を返してくれませんでした。それどころか、僕の方を見てもくれませんでした。高齢者なので耳が遠いのかな?と思い、横で心配そうな顔をしている家族の人に状況を聞いてみました。家族の人の話によると、Aさんは前日の夕食から急に食べることができなくなり、声をかけても反応が乏しくなったとのことでした。僕はAさんに聞こえるように「Aさん!おはようございます!わかりますか?」と大きな声で呼びかけても反応がありません。それどころか、診察室に入って来た時よりも、なんだか呼吸が弱くなってきているような・・・あれ!?Aさん息してないじゃん!!
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と、こんな感じでAさんの心臓と呼吸が止まっていることに気がついたのです。わかりやすく言うと、Aさんは誰にも気がつかれないうちに、車椅子に座ったまま”死んでいた”のです。僕はそばにいた看護師さんに「Aさんの心臓が止まっているから、救急処置室に運ぼうか…」って静かに声をかけました。その看護師さんは驚きを隠せない様子で「えっ!?なんですって!?」とあたふたし始めました。若干パニックに陥っているその看護師さんに、もう一度ゆっくりとわかりやすく「Aさんの心臓と呼吸が止まっているから、すぐに救急処置室に運ばなきゃね^ ^」と笑顔で伝えたのでした。
死んだ状態のAさんを車椅子に乗せたまま、すぐに診察室を出発することにしました。診察を待っている大勢の患者さんの目の前を、僕は悠然とAさんを乗せた車椅子を押しながら歩いて抜けて行きました。途中でAさんがバタッと倒れることがないように(ホラーですね)、細心の注意を払いました。まさかAさんが”死んだ状態”だったなんて、おそらく誰も気がつかなかったと思います。救急処置室に到着するとAさんをベッドに移しました。心電図モニターを付けるとやはり心拍が停止していました。それから心臓マッサージを開始し、点滴のルートを確保し、今まで何十人もの患者さんを生き返らせてきたように、蘇生処置を始めてAさんを蘇らせたのです。
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今日の話ですが、病院で実際に起きたことなのか?、それとも僕の完全な作り話なのか?ということは、敢えて明らかにしないことにします。でも突然目の前でこのような「不測の事態」が起こった時に、冷静に対処できるタイプの人間は、次に挙げる2種類になります。
・「不測の事態」を数多く経験したきた人
・「不測の事態」に備えて十分訓練してきた人
僕自身の過去の話にはなりますが、救命救急センターに勤務していた時は、数多くの瀕死状態の患者さんを助けて来た経験があります。またそのような重症患者さんをいかに救命できるかというトレーニングを積んできました。長年に渡って「訓練」と「経験」を交互に積み重ねてきたので、どんな「不測の事態」にも冷静に対処することができる自信があります。以前の記事「努力 → 実力 → ◯力 → ◯力」でも紹介しましたが、努力は決して裏切りません。すぐに結果は出なくても、努力をし続けることは重要なのです。久しぶりの「不測の事態」で、本当の自分に気がつくことができた一日でした^ ^
(ということはノンフィクションか!?)
それではまた^ ^