努力 → 実力 → ◯力 → ◯力

僕がまだ医学部の学生だった時に一番印象に残っている講義の話をします。それは脳神経外科の講義で、講師は当時大学病院で一番手術がうまいと言われている先生でした。その先生は、とても話し上手でユーモアがあり、講義内容も教科書から外れた実際の臨床現場での話も多く、僕はその先生の講義がいつも楽しみでした。

臨床実習の時期を迎え、いよいよその先生の最後の講義の日がやってきました。いつも通り冗談を交えながらの面白い講義でしたが、内容は濃厚で実戦的でした。その名物講義を、もう受けることができなくなるのかと思うと残念な気持ちになりました。そして瞬く間に時間は過ぎていき、最後の脳神経外科の講義が終了してしまいました。

「これで終わりか〜」と思った瞬間、その先生がいきなり黒板に四階建てのピラミッドを描き始め、そして一番下の階に「努力」という文字を書いたのです。

教室はざわめきました。そしてそのざわめきを制するように、その先生はゆっくりと話し始めたのです。「今日は最後の講義なので、君たちにこれからの人生で心がけてほしい大切なことを伝えようと思います」と。

まず僕たちが一番最初にやらなければならないことは「努力」の積み重ねだということです。そして板書はピラミッドの二階へと続きました。努力を積み重ねた結果、何が生まれるかというと、

それは「実力」です。懸命に努力をした者には必ず「実力」がついてくるということです。そして先生は淡々と話し続けます。

「実力がつくと何が起こると思う？それはね、”余力”が生まれてくるんだよ」と言って、ピラミッドの三階に「余力」という文字を書きました。僕の心臓は自然と強く、そして速く打つようになってきました。

「余力が出てきたら、最後はどうなると思う？」

教室内はシーンとしていました。学生たちの視線は黒板と先生に釘付けになっていました。先生が黒板に書く最後の言葉をドキドキしながら待っていました。隣に座っている友達の心臓の鼓動が聞こえてきそうなくらい静まり返っていました。

「余力が出てきたら、こうなるんだよ」

と静かに言って、先生はピラミッドの最後のてっぺんのところにこう書いたのです。

それだけ書いて、先生は最高の笑顔で教室を後にしました。全身に鳥肌が立った僕は、しばらく言葉を発することができず、黒板に書かれた「魅力」という文字を凝視しながら、先生に対する敬意の拍手を送り続けたのでした。

あの講義から20年くらい経ちましたが、今でも僕の心を支えてくれる名講義だったと思います。どんなことに対しても手を抜かずに「努力」をすることで、必ず「実力」がついてきます。すると「余力」が生まれてきて、最後には「魅力」へと変わっていきます。立派な仕事をしている人や、ビジネスで成功している人たちを見ていると本当にそう思います。これからも、先生の教えを大切にして生きていきたいものです。

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＜本日のブッダの言葉＞

　一つは利得に達する道であり、他の一つは安らぎにいたる道である。ブッダの弟子である修行僧はこのことわりを知って、栄誉を喜ぶな。孤独の境地にはげめ。

『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村 元 訳より

それではまた^ ^