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女性患者さんに「福山雅治」に似ていると言われた話

ぐるぐるねこ男

 

研修医の頃の話です。僕はとある都会の総合病院に勤務していました。すべての診療科がそろっている大病院だったので、病棟の各フロアーにはさまざまな診療科の患者さんが混在していました。内科や外科といったメジャーな診療科は一つのフロアーを独占していましたが、耳鼻科や眼科などのマイナーな診療科は、混合病棟になっていました。僕が当時所属していた診療科は20ほど入院ベッドがあり、常に満床の本当に忙しい病院でした。

 

僕は研修医として毎日患者さんの部屋へ回診に行きました。大部屋もあれば個室もあります。中には特別室という部屋もあって、そこに入院している患者さん専用のトイレやシャワーがついているゴージャスな部屋もありました。特別室にはお金持ちや有名人、そしてそのスジの人(?)など、ここでは書けないような人たちが入院していました。

 

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さて、ある日の回診の時の話です。僕は40歳くらいの女性患者さんの担当医をしていました。その女性患者さんは悪性腫瘍を患っていて、化学療法の点滴治療のために入院していました。病状や食事量などをチェックするだけでなく、重い病気に対する不安を和らげてあげるために、僕はその女性患者さんと何気ない世間話もよくしていました。四人部屋に入院していた彼女は、他の女性患者さんともすごく仲良くなっていたようです。

 

いつものように朝早くその四人部屋を訪れました。四つのベッドのカーテンは、いつも通り閉まっています。女性部屋なので、寝起きの姿を(特に僕のような男性医師に)見られたくないのか、必ずカーテンが閉まっていました。僕は担当の女性患者さんのベッドの前に立ち、「おはようございます。今朝の調子はどうですか?」と声をかけると、中からカーテンを開けて彼女がいつもの笑顔で挨拶してくれるのです。

 

前日の血液検査の結果や、当日の治療の予定、副作用の話などをしていると、向かいのベッドのカーテンの奥から声が聞こえてきました。僕に何かを言いたそうにしている気配を感じました。すると僕の担当の女性患者さんがニコニコしながら「先生、向かいの人(もちろん女性)が先生のこと気になるって言ってたから、何か話してあげたら?」と言ってきたのです。僕はちょっとドギマギしましたが、カーテンの向こうの他の三人の女性患者さんがソワソワした感じになったので、思い切って向かいのベッドの患者さんに「おはようございます。どうされましたか?」と、カーテン越しに優しく声をかけてみました。すると、

 

「先生の”声”って、福山雅治にそっくりですね」

 

と、福山雅治の追っかけファンのような黄色い声で僕に話しかけてきたのです。語尾にハートマークがついているような感じでした。返答に困った僕は、どうしようかな…と担当患者さんの方へ向かって苦笑いをしたのです。するとその担当患者さんは大きな声で即座にこう言ったのでした。

 

「そんなええもんとちゃうで!カーテン開けて見ん方がええよ(笑)」

 

その瞬間、みんなで声をあげて笑いました。もちろん僕も一緒になって大笑いしました。僕の声が福山雅治に似ているかどうかはわかりませんが、少なくとも僕は福山雅治のようなイケメンではないので、その担当患者さんのコテコテの関西弁で言われた言葉に爆笑せざるを得ませんでした。

 

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結局、その担当していた女性患者さんは、病状が悪化して半年後に亡くなりました。外来通院できていた時期は、僕に手作りの弁当を作ってきてくれたりしていました。まだ独身だった僕と一緒に花火を見に行きたいとせがまれて、近所の花火大会に行ってあげたことがあります。病状的に絶対に助からないということが分かっていたこともあって、ついそのように心を許してしまうこともありました。僕は「そんなええもんとちゃう」人間ですが、彼女が生きている間は少しでも「ええもん」になれたかも、と思っています。

 

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それではまた^ ^