僕がまだ手術をしていた頃の話です。手術の前日の夜は、必ずと言っていいほどジョギングをしていました。仕事が終わって帰宅し、夕食を食べて片付けをしたらジョギングに出かけます。普段は音楽やPodcastを聴きながらジョギングや散歩をするのですが、手術の前日だけは何も聴かずに、一時間ほどゆっくりとジョギングするようにしていました。
走っていると車の音や人の声が聞こえてきます。町の喧騒の中を走ったり、ほとんど人がいなくなった公園の中を走ったりもします。走り続けているとだんだん外からの音が聞こえてこなくなり、ジョギングしている自分の呼吸の音だけが聞こえてくるようになってくるのです。
心地よい疲労を感じるくらいになってくると、なぜか不思議と翌日の手術のことが頭の中に浮かんできます。手術を受ける患者さんの顔は浮かんできません。ただ病巣が写っている検査画像や、その病巣に対して手術をしているシーンだけが浮かんできます。そして「明日はこんな手術をしてみてはどうだろう?」とか「こうすれば絶対に上手くいくはずだ」といったアイデアが少しずつ浮かんでくるのです。
そして手術当日です。前日のジョギングの時に浮かんできたアイデアを、実際の手術で活かしてみます。イメージしていた通りに手術は上手く進行します。病巣は完璧に処置することができて、患者さんは何の合併症もなく、その後退院していくのです。
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「私、失敗しないので」って、いつも僕は本気で言っていました。実際、自分の手術成績はどこに出しても恥ずかしくないものでした。一方で僕の上司は手術でミスばかりしていました…。手術同意書という患者さんとの契約書のおかげで、何度も自分のミスを帳消しにしていました。医者の当たりハズレ(=医者ガチャ)って確実にあるので、皆さんもご注意下さい。
それはさておき、音楽やPodcastなど聴かずにゆっくりジョギングしたり散歩をしてみてください。少なくとも30分は続けてみましょう。そうすると、すごいアイデアが湧いてきたり、また自分自身のことを深く内省したりすることができます。仕事に行き詰まったり、自分が何をしたらよいのか分からなくなった時は、手ぶらでジョギングや散歩を楽しんでみてください^ ^
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<本日のブッダの言葉>
或る人々は(人の)胎に宿り、悪をなした者どもは地獄に堕ち、行ないの良い人々は天におもむき、汚れの無い人々は全き安らぎに入る。
『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村 元 訳より
それではまた^ ^