もし、あの時の女の子とそのまま付き合い続けて結婚していたら、今頃どうなっていただろうか?時々そんなことを思うことがあります。
僕にとって一番最初の彼女は同じ大学の歯学部に通う年上の女性でした。彼女の実家は病院を経営していたので、もし彼女と結婚していたら僕はその病院の院長になっていたかもしれません。
二番目の彼女は医学部の同級生の女の子でした。両親は二人とも医師をしていて、その子もすごく勉強ができて好奇心旺盛な子でした。もし彼女と結婚していたら、お互い忙しいのですれ違いの人生になっていたかもしれません。でも、時々しか会えない恋人のような関係で、ずっと上手く付き合っていけたかもしれません。
三番目の彼女は10歳年下で、沖縄の離島出身の女の子でした。医療系の学生だった彼女が病院実習に来た時に僕が担当し、そのまま自然な流れで仲良くなって付き合うようになりました。もし彼女と結婚していたら、今頃は沖縄の離島の診療所で赤ひげドクターをしていたかもしれません。
そして四番目の彼女と僕は結婚しました。仕事が忙しくて結婚式を挙げることができませんでしたが、婚姻届を出したクリスマスイブの夜、自転車で二人乗りをしながら深夜の街を走っていると、一軒の寂れたバーを見つけたのです。
二人だけで結婚のお祝いをしようということでお店に入り、まずはよく冷えたビールで乾杯しました。お客さんはカウンター席に若い女性が一人だけで、マスターと楽しそうに(いつもそうしているように)話をしていました。そして僕たちはジンライムを飲み、若い女性は青色のカクテルを飲んでいました。
狭いお店に4人しかいないので、僕たちが婚姻届を出してきたということを知られるまでに、それほど時間はかかりませんでした。するとマスターは「お祝いの曲を送らせていただきます」と言って若い女性に目で合図をし、お店のピアノの方へ二人で歩いて行きました。そしてマスターが静かにピアノを弾き始め、それに合わせて(いつもそうしているように)青いカクテルを飲んでいた女性がハスキーな声で歌ってくれました。
クリスマスイブの夜、ジンライムを飲みながら聴いたそのお祝いの曲を思い出すことができません。そしてそのバーも、その夜に一度行ったきりで二度と行くことはありませんでした。数年後にバーを訪れた時には、すでに閉店していました。でも、四番目の彼女とその夜に結婚し、今も一緒に生活をしているという事実があるかぎり、僕の記憶の中にはその寂れたバーがお店を開けて待ってくれています。素敵なピアノとハスキーな歌声を聴きながら、ジンライムを朝まで飲み続ける僕たちがそこにいるのです。
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<本日のブッダの言葉>
愚かなものに念慮が生じても、ついにかれには不利なことになってしまう。その念慮はかれの好運を滅ぼし、かれの頭を打ち砕く。
『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村 元 訳より
それではまた^ ^