🌀ぐるぐるねこ男ブログ🌀

ぐるぐるねこと一緒に暮らしている男(医師)の日記

押し入れの秘密

物心ついた頃から僕は両親と一緒におんぼろの長屋に住んでいた。6畳の部屋が2つとおまけでつけてもらったような狭い台所と風呂があり、トイレは汲み取り式のいわゆる”ボットン便所”であった。2つの部屋は薄い襖で分けられていて、片方の部屋がリビングルーム(というほど立派な部屋ではないが)、そしてもう一方の部屋を寝室(こちらも)として使っていた。

リビングルームに吊るされた埃だらけの蛍光灯の下にはボロボロのちゃぶ台が置いてあった。いつも巨人戦を観ていた松下電器製のテレビは、チャンネルを変えるごとに上から下へと忙しく映像が流れていく中古品だった。そして隣の”寝室”という名目の部屋にはもちろんベッドなんて置いてなくて、学校から帰ったら宿題をしたり、休日の昼間は僕が遊んだりする部屋で、夜寝る時だけ押入れからせんべい布団を引きずり出して家族3人で川の字になって寝るといった、いわゆる”なんでも部屋”であった。

寝室の押し入れは、たいていの家が普通そうだと思うのだが上下2段に分かれていて、上の段には布団がギュウギュウに詰められていた。そして下の段はホームセンターで買ってきた深めの衣装ケースが横に4つ並べられていた。そのケースは白のプラスチック製だったので中が見えないようになっていた。父と母の衣類や大事なものが入っているので、ケースの中は絶対に見ないようにと言われていた僕は、保育園の頃からそのルールをきちんと守っていたのである。

 

***

子ども心ながら、貧乏長屋に住んでいることがとても恥ずかしかったので、友達をうちに連れてくることはなかった。僕が小学校3年生になった時、近所に住んでいる同級生で、貧乏な家庭の僕でもいつも仲良くしてくれる女の子がいて、当然僕はその子をすごく好きになった。そして両親がいない土曜日の午後、その子を思い切って家の寝室(なんでも部屋)に連れ込んだのである。

もちろんやましい気持ちなんて少しもなかったが、”なんでも部屋”でその子と一緒に本を読んだり、向かい合って折り紙をして遊んでいる間ずっとドキドキしていた。その子から香ってくる女の子特有の匂いや、その子の吐き出した吐息が混ざった空気を僕がこの狭い部屋の中で吸っていると思うと、脳の真ん中の一番奥深いところがむずむずと痒くなりっぱなしだった。

夕方近くまで遊んでいて、母が仕事から帰ってくる時間が近づいてきたので「そろそろお母さんが帰ってくるから、また今度遊びの続きをしよう」って伝えたら、その子は「うんわかった。すごく楽しかったよ」と言い、そして押し入れの方を指差して「でも最後にあの押し入れの中に一緒に入りたい」と言葉を続けた。

その瞬間、僕の心臓はびっくりするくらいドキドキし始めて、喉から飛び出しそうになった。僕はその子と一緒に狭い押し入れに入って、体をぴったりとくっつけて、そしてくっついていることを忘れるくらいずっと一緒にいたくなったのであるが、押し入れの中には汚いせんべい布団や衣装ケースがある。あいにく我が家の押し入れは子供が2人入るスペースなんてないんだと申し訳なさそうに(残念そうに)説明した。しかしその子は「じゃあ押し入れの中を見せてくれるだけでもいいよ」と押し入れの中を譲らなかったのである。

 

***

汚いせんべい布団を見られるのがすごく恥ずかしかったけど、どうしてもうちの押し入れの中を見たいって譲らなかったので、僕はしぶしぶ襖を横に引いて押し入れの中を見せてあげることにした。「どう?うちの押し入れ。布団がぎゅうぎゅうで汚くてごめんね」と言ってすぐに襖を閉めようとした矢先、その子は何を思ったのか急に白の衣装ケースを引き出そうとしたのである。だめだよっ!てその子の手を押さえようとしたのであるが、そんな僕を強く押し退けて中身の見えない白の衣装ケースを、勢い余って引き抜いてしまった。

その衣装ケースの中には母のブラウスやジーンズが山ほど入っていた。もしかしたら靴下や下着も入っていたかもしれない。でもその衣装ケースの中身よりも、その子が引き抜いた衣装ケースそのものがあった場所の床を見て、僕たち二人は唖然とした。そこには子供が一人入れるくらいの大きな穴が空いていたのである。そしてその穴からずっと奥底に続く暗闇に向かって、木でできたハシゴがかかっていたのだ。

(つづく)

 

*****

<本日のブッダの言葉>

 水の中の住居から引き出されて陸の上に投げすてられた魚のように、この心は、悪魔の支配から逃れようとしてもがきまわる。

引用:『ブッダの真理のことば 感興のことば』中村 元 訳より

ぐるぐるねこ男

それではまた^ ^